Simcenter Flomaster 製品概要

Simcenter Flomasterは管路流動における大規模熱・流体・気液二相流と機電制御システムの一次元(1D)シミュレーションに対応する汎用ソフトウェアで、『内部流れシステム(Internal Flow Systems)』の実験検証データに基づき、英国流体力学研究会(BHRA)の専門家(Donald Stuart Miller)から生まれました。『内部流れシステム(Internal Flow Systems)』は70年代に執筆されましたが、それより前の60年代頃から流体流れに関する実験データや解析理論を集め、流体解析ソフトウェアFlomasterを開発し、1987年に商業化しました。1992年には専門業社Flowmaster社(Flowmaster International)を設立し、本格的に一次元熱・流体解析の商業活動を開始しました。その後2012年にメンター・グラフィックスに買収された後、FloMASTERと改名され、その後も何度かバージョンアップを通して、多くの解析機能や流動可視化機能が追加されました。そして2017年頃、シーメンスデジタルインダストリーズソフトウェア社(Siemens Digital Industries Software)に買収され、引き続きSimcenter Flomasterとして開発・販売がなされています。

操作しやすいプリ･ポスト一体型ソフトウェア

Simcenter Flomasterにはウィザードツールが多数用意されているため簡単に解析モデルを作成できます。また、ポスト処理では、解析結果のプロット表示のほかに、ゲージ表示、流動方向の表示、流動コンター表示、アニメーション表示などの多様な流動可視化表示が可能です。

一次元シミュレーション対応

給排水の低圧流動をはじめ、混合ガス、高圧ガス、油圧流路、油圧ブレーキ、潤滑流路、給油システム、廃熱回収・ヒートポンプ、ガスタービン、空調システム、エアスペースなどの内部流から石油精錬、LNGガス・水素ガス、液体・気体配給施設など重工業、自動車、航空・宇宙、船舶、各種プラントのプロセスまであらゆる分野の非圧縮・可圧縮流体、気液二相流の流動に対する流路の圧損、ウォーターハンマー・スチームハンマー、サージ圧力解析及び、機械アクチュエータのばね・ダンバー、レバー、油圧シリンダー、ピストンや、電気系のAC モータ、バッテリ給電・充電・発熱、電子制御器などの熱・流体流動の一次元シミュレーションに対応します。

パラメトリックスタディ

変数パラメータとして配管寸法やポンプ回転速度、バルブや制御器の動作時間などを流路解析モデルに設定することが可能です。これにより、実験計画法により予想される各種シナリオに関する実験解析や、変数パラメータの変動値と流路流動の関連性を定量的に評価することができます。またこの変数パラメータに関するシミュレーションは、Microsoft Office Excelで定義することができ、Excelからの実施やExcelに解析結果を出力することもできます。

流路のメッシュ分割が不要

Simcenter Flomasterには、大規模な流路の定常流動からダイナミックス流動、気液二相流、非ニュートン流体流動まで解析機能が揃っており、流路をメッシュ分割することなく解析が可能です。多くの流路3次元CAD ファイル(PCF、IDF、P&ID、GIS)にも対応しており、これらの流路データをインポートすることができます。

FMI(Functional Mock-up Interface)V3.0対応

FMUファイルをインポート/エクスポートする機能があるため、3D熱・流体ソフトウェアSimcenter FLOEFDや電磁場解析ソフトウェアSimcenter Motor Solver、最適化ソフトウェアSimcenter HEEDSなど他の解析ソフトウェアとFMU規格で提携し、その解析結果を取り込んだ一次元シミュレーション(Co-Sim)ができます。また、プロセス管理システムのMQTTプロトコルに関する通信コンポーネントや、各種のPLC制御システムの通信規格OPC AUに対し、制御シグナルの書き出し・読み取りコンポーネントを有して、プロセス現場のIoTのリアル値を取り込むこともできます。

Simcenter Flomaster 製品詳細

Simcenter Flomasterは、配管流動解析だけではなく、流れシステムに対し、各種流体・電気・機械、制御機器やプロセス設備を取り込み、解析モデルを構成します。非圧縮流体(液体)、圧縮流体(液体とガス)と気液二相流、及び非ニュートン流体の熱・流体の定常流動・ダイナミックス流動解析を実施できます。

流れの流路システムに関しては、D. S. Miller執筆の『Internal Flow Systems』の中に、様々なプロセスに対する設備の流れ特性データを熱・流体の数学モデルに特化する550以上のコンポーネントにまとめています。

流路の材料については、配管材料などの固体材料、混合流体と混合ガス、高圧ガス、超臨界ガス、冷媒、非ニュートン流体の伝熱・流動物性値をサポートし、多数のビルドイン材料のほか、Engleの流体材料データベース、NIST REFPROPやGASPAK、CAPEOPENを利用できます。

流路コンポーネント

流路設備のコンポーネントは、D. S. Miller執筆の『Internal Flow Systems』に基づき、円管・ダクト、エルボ、ティーズ、タンクから、各種の流体設備であるアキュムレータ、ACモータ、油圧シリンダー、コンデンサ、コンプレッサ、熱交換機、変位ポンプ、回転ポンプ、電磁弁、制御弁、PIC制御器、ロジック制御器、スイッチ、エアスペース、ガスタービン二次空気システム、チョーク流など1万件以上(47カテゴリ、550コンポーネント)の流動特性データを実装しています。

その中で、コントローラと電気・機械コンポーネントについて、実装イメージを下図に示します。熱・流体計算モデルのコンポーネントの数(Ver 2304現在)としては、PIC電気制御器が90モデルで最も多く、蒸気サイクル(VC)が58モデル、熱交換機が46、ガスタービンが42、配管・ダクトが40、電磁弁・バルブが33、電気・機械が35、自動車が33モデルあります。

図1　内臓コンポーネントのツリー展開例

また、常用の流路コンポーネントのネットワークをグループ化し、コンポジット(Composite)として流路コンポーネントに登録しておけば、別の流路モデル作成時に再利用することもできます。

主な適用分野

• 自動車・運輸機械：EV車熱制御・管理、バッテリ、エンジン・モータの冷却システム、潤滑系、油圧ブレーキ、エアコン
• 重工業・流体機械：油圧シリンダー、流体継ぎ手、トルクコンバータ、油圧機械、冷却系、潤滑系、油圧ショベル
• 船舶・洋上設備：エンジン冷却・潤滑・熱管理、ブラスタータンク、排気・換気システム、給・排水系
• 宇宙・航空：エアスペース、エアクラフト、エアコン、慣性力を考えた給油システム
• 電子製造工業：排気・換気系、空調系、洗浄・乾燥系
• 発電・電気設備：モータ・発電機の冷却・熱管理、バッテリの熱管理、スチーム発電2相流解析、ガスタービン
• 医療・環境：排気・換気システム、エアコン、酸素補給システム、ノンリブリーザーマスク
• プラントプロセス：ガス配給、水素ガス流路、冷却システム、廃熱回収、ヒートポンプ、二酸化炭素処理プロセス
• 建設・インフラ：給排水、燃料配給、水処理システム、コンクリート圧送システム

材料物性値

Simcenter Flomasterは固体、可圧縮流体、非圧縮流体、非ニュートン流体などの材料プロパティをサポートしています。Eagleデータベース、アメリカ国立標準技術研究所のNIST REFPROP、GASPAKなどをサードパーティのライセンスとして搭載して、流体と熱プロパティを計算することができます。他にも、CAPE-OPENによる流体物性値の計算ツールを搭載しています。

利用可能な材料カテゴリ

• 非圧縮液体・混合液体
  水／海水／原油(Grude Oil)／理想ガスのドライ空気(Dry air as real gas)／ミネラルオイル(Mineral gas)／グリコール冷却剤(Glycol coolant)／“Tellus/Energol/Hydroil”の潤滑油・油圧作動油
• 非ニュートン流体
  セメントスラリー(Cement Slurry)／ソース(Sauce)／油脂(fat and oil)/血液(Blood)など
• 可圧縮流体・混合流体
  空気／二酸化炭素(Carbon Dioxide)／スチーム(Steam)／自然ガス(Natural Gas)／水素(Hydrogen)/窒素(Nitrogen)／湿り空気(Humid air)
• エアコン(AC)冷媒・蒸気サイクル(VC)作動流体
  フロン(Freon)／R12/R134a/R290(Propane)/R744(CO2)/アンモニア(Ammonia)/エタノール(Ethanol)
• エアスペース・ガスタービンの燃料(Fuel)

解析機能

パラメトリックスタディ

Simcenter Flomasterでは、変数パラメータを利用した解析も行えます。変数パラメータには配管寸法やポンプ回転速度、バルブ開度、環境温度、体積流量などを定義することができ、全ての解析タイプに対して「変数パラメータ・実験解析」を実施できます。
変数として入力されたパラメータを解析モデルの仮設定値として置き換えた解析を実験解析といいます。実験解析を利用すれば、最適化手法と同じ、流路システムの最適な解析結果、最適な流路パラメータを見つけ出すことができます。

プリ・ポスト処理・解析結果の流動可視化

Simcenter Flomasterはプリ・ポスト・ソルバ一体型のソフトウェアで、コンポーネント化された配管(PIPE)、エルボ(Bend)、オリフィス板(Orifice)、ティーズ(Junction)、レデューサー(Transition)などの配管継手、アキュムレータ(Accumulators)、バルブ(Valve)、ポンプ(Pump)、ファン(Air Side/Compressor)などの設備のアイコンをコンポーネントツリーからドラッグして、流路ネットワークに追加し、コンポーネントのプロパティデータを入力するだけで流路モデルを作成することができます。またマウスで多数のコンポーネントを含む流路ブロックを選択し、コピー・貼り付け機能を利用した流路ブロックの複製や部分的なパラメータ編集を簡単に行うことができます。

解析結果の可視化では、解析結果の表示アイコンをクリックするだけで、表示する解析結果のアイテム選択、矢印表示のスタイル、アニメーション表示、レンジなどの設定をすることができ、簡単に解析結果の流路アニメーション表示を行えます。また、流路ネットワークのコンポーネントや節点にセンサーを取り付けると、コンポーネントの解析結果や節点圧力やキャビテーションを把握することができ、流路パーツにセンサーを取り付けると、流量や圧力損失、流速度などを把握できます。センサーは、スライドバーやダイヤメータとして表示でき、レンジはカスタマイズできます。また、回路ネットワーク全体に対し、矢印で流れの要素をアニメーション表示することができます。

図2　解析結果の可視化アニメーション表示

CADデータ・外部3次元シミュレーションとの提携(Co-Sim)

多数の3次元CADデータに対応

3次元CADのPCF／IDF／P&ID／GISニュトラルファイルをサポートしているため、既存の3次元CADから簡単に流路モデルを作成することができます。また、Simcenter FLOEFDの流路ジオメトリデータ(CAD2FEMファイル)から流路ネットワークを作成することもできます。

FMU(Function Mock-UP Unit)のインタフェイスFMI対応

FMU(Function Mock-UP Unit)のインタフェイスFMIに対応しているため、Simcenter FLOEFDやSimcenter Motor Solverなどの外部解析ソフトウェアからの熱・流体の解析結果をインポートし、1D3DのCo-Sim連携を実施することができます。
インポートしたFMUデータは、Simcenter Flomasterのスクリプト言語を用いて、コンポーネントとして数学モデル化することができます。Simcenter Flomasterは、Simcenter FLOEFDのFMUコンポーネントがあり、直接Simcenter FLOEFDとCo-Sim連携することができます。

応用事例

事例１：機内給排気エア サイクル マシンの解析例

飛行機の機内エアシステムでエア サイクル マシンの簡略化したモデルを下図に示します。ブリードエアは、比較的高い圧力と温度でエア サイクル マシンに入ります。熱交換器を通過し、ラムエアによって冷却されます。次に、空気は遠心圧縮機によって圧縮され、温度と圧力の両方がシステム内の最大値まで上昇します。次に、空気は二次熱交換器、膨張タービンを通過し、周囲温度以下に冷却し、ブートストラップシャフトを介してコンプレッサーを駆動します。その後、空気がキャビンに供給され、冷却と加圧の両方が行われます。このモデルで、可圧縮流体の定常流動解析を実施しました。

a.エアクラフト排気システムとエアサイクルマシンの解析モデル(左)と解析結果(右)の例

事例２：電気自動車(EV)の冷却システムのモデリング

Simcenter Flomasterは、電気自動車の熱管理システムをモデル化して、効率よく熱流体解析を実施することができます。Simcenter Flomasterのコンポーネント ライブラリには電気自動車のモータ、バッテリ、インバータ、コンバータ、コントローラ、熱交換機、ポンプ、車室などの熱・流体解析で利用するコンポーネントが用意されています。これらの既存コンポーネントと電気自動車の設計仕様を満たすように設計パラメータを調整して、温度、圧力、流量などの電気自動車の熱管理システムの主要なパラメータを簡単に取り扱うことができます。その結果、コンポーネントを物理的に設計する必要がなく、Simcenter Flomasterで電気自動車の熱管理システム全体のモデルを作成し、評価することができるため、コストを大幅に削減しながら迅速に変更を加えることができます。システムの温度を管理することに加えて、車両の全体的なエネルギーに対する熱管理システムの影響を考案することもできます。

完全なEVサンプルモデルを下図b-1に示します。この解析モデルではDC/ACコンバータ水冷ループ、モータ・インバータ水冷ループ、バッテリ空冷ループ、車室空調ループなど複数の冷却ループ間の相互作用と、それらがエネルギーの使用量、ひいては電気自動車の航続距離に与える影響をモデル化するために作成されました。ネットワークは、低温冷却ループ、高温冷却ループ、空冷バッテリ、およびキャビン モデルを備えた HVAC システムで構成されます。車両モデルは、ユーザー入力のドライブ サイクル (この場合はアーバン ダイナモメーター ドライビング スケジュール (UDDS) ドライブ サイクル、下図b-2) を維持するために必要なパワー (速度とトルク) を計算するように設計されています。

このモデルに対し、解析時間刻み1秒、UDDSで定義した1060秒間において、非定常熱・流動ダイナミックス解析を実施しました。解析結果の一部を下図b-3～b-6に示します。

b-1　EV自動車の熱管理システム解析モデル

b-2 解析で用いたアーバン ダイナモメーター ドライビング スケジュール (UDDS)
ドライブ サイクル(1060秒間)

b-3 バッテリの温度・電圧・発熱・冷却流量・流速度

b-4 モータ・ポンプ・チャージャ・インバータの温度・流量・熱負荷

b-5 各熱交換器の効率と熱負荷

b-6 システムの可視化・アニメーション表示

Simcenter Flomaster 製品構成

• プリ・ポスト・ソルバ一体型
• ライセンス形態：
  ネットワーク
  スタンドアロン
• 解析タイプ別のベースライセンス：

  ① LS Static：液体システム定常解析・伝熱解析 [Liquid Systems]

  ② LS Dynamics：液体システム定常・ダイナミックス解析・伝熱解析 [Liquid Systems Static + Dynamics]

  ③ FS Static：流体(液体・ガス)システム定常解析(伝熱解析含む) [Fluid (Liquid + Gas) Systems]

  ④ FS Dynamics：流体(液体・ガス)システム定常・ダイナミックス解析(伝熱解析含む) [Fluid (Liquid + Gas) Systems Static + Dynamics]

  ⑤ Ultra：流体アルトラ [Ultra: (FS Dynamics + 1D3D・Vapor Cycleオプション)]

  注：LSはLiquid Systemsの略、FSはFluid Systemsの略

• オプション：
  

  オプション名	詳細	対向Flomasterベースライセンス
  GT Sec Air	ガスタービン2次空気流れ	FS Static、FS Dynamics、Ultra
  Vapor Cycle	蒸気サイクル・二相流ソルバー	FS Static、FS Dynamics
  Advanced Physics	混合液体と非ニュートン流体	LS Static、LS Dynamics
  1D3D Simulation	1D3D連成解析ツール	LS/FS Static、LS/FS Dynamics

Simcenter Flomaster 動作環境

Simcenter Flomasterは下記パッケージを使用します。
これらはインストーラに含まれます。

• Microsoft Visual Studio Tools for Applications 2017
• Microsoft VC++ 2015 – 2019 (x64)
• Microsoft .NET 7.0 以後
• Microsoft SQL Server Management Studio

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